高速バスの知識

〈カイル〉か?〈カロライナ〉か?〈-アクセル〉か?ちがう、ちがう、ちがう。 あてっこゲービームーゲルはそれから五分つづいた。
ブレナンの答えは全部、ノーだった。 コーラーは立ちあがって、室内を行ったり来たりした。
顔は紅潮している。 「ヒントをくれよ、このろくでなし!おれをいたぶりゃがって」ブレナンはちょっと考えてから、アニメに出てくるようなきついイタリア靴りでいった。
「あたしのボートじゃなくて、じつは・・・」「なんのこと?」「それがヒントさ」ブレナンはいった。 いえるのはそこまでだ。
「あたしのボートじゃなくて、じつは・・・」「酒を飲んでるのか、ケビン?」「これがヒントなんだよ、リッチー」ブレナンは、そのヒントを五分間繰り返した。 その五分間、コーラーは、おなじブルックリン育ちの友人だけに理解可能な憎まれ口やそれをさまざまに変形させた悪態をつきながら、そわそわと歩きまわった。
そしてそれがふと浮かんだ。 あたしのボートじゃなくて、じつはあなたのボート。

「Uボートを見つけたのか?」「ちえてあたり。 リッチー、見つけたんだ」コーラーは座りこんだ。
Uボートだって?いはずだ。 「〈スパイクフィッシュ〉だろ」考えたすえコーラーは声をあげた。
一九六0年代に、射撃演習用に沈められた第二次世界大戦時代の米軍潜水艦だ。 「どう考えても、見つけたのは〈スパイクフィッシユ〉だ」「ちがうんだ、リッチー!おれは真ん前の砂にひざま守ついて、それを見あげた。
『Uボート』の映画音楽が聞こえてきたんだよダダッダダつてな!だれにもいうなよ。 これは秘密中の秘密なんだから」「これからビームーゲルル・ネイグルに電話してみる」コーラーはいった。
「つぎのツアーに連れていってもらう」「だめだ!やめろ!りッチー、そんなことするな!ぜったいにいうんじゃないぞ」最後にはコーラーも、ここだけの話にしておくと同意した。 ブレナンとおなじく、その夜コーラーも、映画『Uボート』の場面を思い浮かべながら眠りについた。
おなじ夜、ネイグルは、発見の祝杯と称して大酒を飲んでいた。 ひとくち飲むごとに、こんな一大事を秘密にしておくことじたいが自分本位なことのように思えてきた。
犯罪だとまで思った。 グラスの氷を鳴らしつつ、仕事、かあってツアーに参加できなかった〈シーカー〉のスタッフのダニー・クロウエルに電話をかけた。
ネイグルはヒントなど出さなかった。 「Uボートを見つけたぞ」と彼はあっさり打ちあけた。
「だれにもいうなよ」翌朝、職場のダイビング・ショップのタイビームーゲルカードを押したジョン・ユーガに、仲良しのジョー・ニュージャージー沖にはUボートは一隻も沈んでいなターズオリというダイビング船の船長から電話があった。 ターズオリは、庖威力を秘めたかたち「キャプテン・ゼロ」の上得意客だった。
「おうユーガ、ゼロだ、きのうはどうだつた?」「そう悪くはなかったよ、岩の山だったんで、移動して〈パーカー〉に潜ったんだ」「ふーんそうか、よかったな」ゼロはいった。 「じゃまたな」五分後、また電話が鳴った。

ユーガは受話器を取った。 「ゼロだけど!いまラルフィーと話したところだ。
ラルフィーがダニー・クロウエルから聞いたところじゃ、ビル・ネイグルはUボートだといってたそうだぜ!」ユーガの胃が激しく揺れた。 ゼロのことが好きだった。
彼に嘘をつくのはほんとうにいやだった。 でも、誓いを立てたからしかたがない。
「おれにはなんのことだかわからないな、ゼロ、岩だったんだよ、ビームーゲルルに訊いてみて」ユーガは電話を切ると、ゼロが電話する前に大急ぎでネイグルに電話した。 「ビル、ューガだ、いったいどうなってる?きみがしゃべったのか?」「ダニー・クロウエルのおしゃべりめ!」ネイグルは息巻いた。
「ひとに話すなといったのに!」ほかのダイパーたちは、うまく秘密を守りとおしたらしい。 伺人かは、家族とかダイビングと関係のない友人に話したようだ、が、それ以外は、妻にすら打ちあけようとしなかった。
じきに、ネイグルが軽率に口をすべらしたことが、チャタトンの耳に届いた。 友人の弱さを承知していた彼は、べつに驚きもしなかった。
ネイグルに、いくつか奇抜な発表をすればいいと勧めた。 月曜日には、Uボートを発見したといい、火曜には〈コーパリス〉を、水曜には〈カロライナ〉を見つけた、などとつづけていけば、そのうちだれも信じなくなる、と。

ネイグルは、やってみるよとぼそぼそつぶやいた。 チャタトンに、氷がちゃりんと鳴る音が聞こえた。
こんどあのポイントへ行ったら、ほかのダイパーらを潜らせないように、みんなで寝ずの番をして見張らなくてはならないかもしれない。 謎の潜水艦のことで頭がいっぱいのダイパーたちにとって、二週間待つのはひどくつらかった。
永おか遠に陸に閉じこめられたかのように感じたダイバーの多く、が、ダイビングのつぎにしたいことをした。 本を読みあさったのである。
それぞれ、自宅か地元の図書館で調べものをした。 地域別の沈没船年表やUボートの歴史、第二次世界大戦の海軍記録などをあたった。
彼らの目的は、謎の沈没船付近で沈没が記録されている潜水艦をさがすことだった。 二隻のUボートが候補にあがった。
一九四四年四月、北緯四O度九分西経六九度四四分で、〈Uー550〉は連合軍の攻撃を受けて沈没したといわれている。 ダイパーにとって、その位置は、まぎれもなくニュージャージーの海域だった。

彼らはすぐに航海図を調べ、緯線と経線を指でたどった。 二本の線ががまじわる点は、謎の沈没船のだいたいの位置からおよそ二00キロ北だった。
ぴたりと一致するとまではいかないが、ニュージャージー沖にはちがいない。 いまなお〈Uー550〉は発見されていない。
二00キロの差は、おおかたのダイバーにとって説明のつく範囲だった。 〈U550〉の沈没位置の記録が不正確だったのかもしれない。
〈U1550〉は連合軍の攻撃で損傷したものの沈没にはいたらず、水中を移動してきて、いまの場所で沈んだのかもしれない。 〈U550〉は、ニュージャージー沖での沈没が記録されている唯一の潜水艦だった。
彼らはそれを本命視するようになった。 威力を秘めたかたちそのつぎの候補が、一九四三年六月に、ざっと北緯三七度四三分西経七三度二ハ分で沈んだ〈U1521〉だ。
ダイバーたちはまた、航海図を参照した。 その位置は、シンコテーグ湾の東一五0キロ沖のヴァージニア海域だった。
ニュージャージー沖ではないにしろ、謎の沈没船から南に二二0キロしか離れていない。 〈U1550〉の場合とおなじく、その距離の説明はつくだろう。
〈U521〉も未発見だ。 ダイパーたちは電話をかけあい、息をはずませて自分の調査結果を報告した。
〈U550〉か〈U521〉のどちらかだ。 疑いの余地はない。
ユーガが、ワシントンDCの国立公文書館に依頼の手紙を送った。 「Uボートに関するあらゆる資料を送ってもらえませんか」氏名と住所も書きくわえた。
一週間後、公文書係からユーガに返事が届いた。 「ユーガ様、本館には、床から天井までの書棚に、直線距離にして一メートル分のUボート関係の書類が保管されています。

これは文書のみで、図面類はふくみません。 直接本館に足を運び、調査なさってはいかがでしょうか」〈U1550〉と〈Uー521〉について、ネイグルはすこし調査をしであった。
興奮に身をふるわせながら、この二隻に関する文献の内容をじっと考え、その意味するところを整理した。